タンゴで始まりタンゴで終わったブエノスの夜(記H)

1月3日(木)夜 ブエノスアイレス
 12月15、16日とタンゴを堪能したが、もう少し大掛かりな本格的なショーを楽しむため、1月2日カラファテからブエノスへ到着後、すぐにチケットを買いに走った。T青年から格安チケット売場を聞いていたので直行したが、ラバーレ通り835の店が見つからず、その辺をうろうろ。なんと大都会のブエノスでその日は停電があったのです。通りの右側にあった店は真暗で、左側にある店は明かりがあったり無かったり。
<こんなに賑やかな通りで停電でした>

 目指す「ラバーレ835」というのは、ひとつの番地の中に30軒くらいの大小の店がひしめき合っているところです。チケット売場のすぐ前にある店の人に「チケット売場はどこですか。」と聞いたら「通りへ出て、右へ行った先だよ。」なんて、まるでデタラメなことを教わったりしながら、どうにか目的の店を探した。ところが、「金曜日のラベンターナのチケットを2枚下さい。」と言ったら「今は売れないよ。停電でコンピュータが動かないから。」とのこと。メルセデス・ソーサやタンゴの神様と謳われているカルロス・ガルデルのCDを買ったりして時間をつぶし、何回か足を運んでも、まだ停電中。「今夜は、9時までやっているから」という店長の話だったので、8時50分に行ってみると、ようやっと電気がきていた。やれやれ。食事付きショーは、「地球の歩き方」でA$240のところ、A$150でゲット。
<お勧めタンゲリーヤ、ラ・ベンターナ>

 金曜日のチケットは完売だった為、3日(木)に変更。その日は、ウルグアイまで足を伸ばして、19:30発の高速船でブエノスまで帰る予定だったので、間に合うか心配したが、杞憂に終わった。8時30分に下船後すぐにタクシーをつかまえて店に直行したら、まだ客は3団体くらいしか入っておらず、私達は早く到着した方だった。
<9時頃にはツワー客で満席になっていた。>

 8時半からの食事は、さすが一流店の名に恥じない内容で、ワイン(フルボトル)付きフルコースだった。やわらかいアルゼンチン牛とデザートのブルーベリー入りクレープの美味しかったこと。
<この肉の厚さにご注目ください>

 中年男性の太い歌声で幕が開き、演奏はピアノ、バンドネオン、バイオリン、ベースの編成でアドリブも効いて演奏の上手いこと。ダンスは最初に男性3人、女性3人でブエノスの下町を背景にスロー、クイックと大人の踊りをたっぷり披露してくれ、2階の一番前の席に座った私達は、舞台の隅々までよく見えて踊りと演奏を堪能した。
<一糸乱れぬ6人の踊り>

 タンゴダンスは、足を速いスピードで動かさなければいけない。従って踊り子は男女共にスマートな人ばかり。足を後ろに蹴る、真っすぐに伸ばして上げる、すり足をする等華やかで歯切れの良い演奏に合わせて動き続ける。そして、最後には決めてポーズをする。女性の体の柔らかいことといったらない。とにかく、大人の女だけが表現できる踊りである。でも、激しい踊りを支え続ける男性のリードも大変だなと思う。仲の良い夫婦のように「息がピッタリ」合わないと踊れないのかもしれない。
<官能的なタンゴ>

 ダンスの後は、ケーナサンポーニャ・太鼓・チャランゴによるフォルクローレが演奏された。3人の呼吸がピッタリ合ったかけ合いで「コンドルは飛んでいる」も演奏された。一本のケーナで数々の音色を出してしまう演奏家に尺八の名人を重ね合わせて聴いていた。
ボリビアのフォークローレとは違う響き>

 次は、ファン楽団のバンドネオン4、ピアノ1、バイオリン3、ベース2の編成による、司会が「タンゴの中のタンゴ」と言うか言わない内に「ラ・クンパルシータ」が奏でられ、200名からの客は流れるような曲に酔う。特にバンドネオンの4人の掛合いが楽しく、惜しみない拍手が送られていた。その後は「村娘」「エル・チョクロ」「アディオス・パンパミーヤ」と知っている曲もあり、自然に体が動いてしまった。「POR UNA CABEZA」では、客席から歌声が出るくらい盛り上がり、タンゴファンの多さと層の厚さに知った。

 最後には、ミュージカル「エビータ」から有名なバルコニーで演説する場面。純白の衣装の歌い手がアルトの太い声で「エビータ」を歌い始めると、それまでざわついていた客席が一瞬静まり返り、息を飲まれた感じで聴きいった。舞台は狭かったが、帝国劇場で以前見た「エビータ」より、心に訴えるものがあった。
<民衆に絶大な人気を誇ったエビータ>

 若干33歳で劇的な生涯に幕を閉じたエバ・ペロン大統領夫人。アルゼンチンの女性の地位向上や参政権、恵まれない子供達への孤児院建設、繊維産業で働く女性や炭鉱労働者への保護等彼女の功績は数々上げられる。女優から大統領夫人になったシンデレラガール。いまもって、アルゼンチンの人々に人気があるエビータのことを知りたくなって、翌日エビータ博物館へ足を向けた。そこで、スペイン語と英語の本を買い求め、これから彼女の生涯をもっと知り人気の秘密を探ろうと思っている。
<日本語にも翻訳されているエビータの本>