算数指導にまで手を伸ばしました(記H)

 JICAの職種分けによると私の担当は日本語教育なのですが、2006年7月にサンタに赴任して驚いた事は、私の履歴書を全ての教師がすでに回覧しており「日本語だけでなく、生け花や書道まで教えて下さい」という希望が出されていた事です。「地域の青年や婦人会でお話をしてくれ」という要望もありましたが、調整員さんが「4校の日本語指導のみです。」と口添えをして下さり、51名の教師の指導だけということになりました。
ところが、9月にサンファン学園の校長から「算数について研修してくれ」という意向が告げられました。エー!どうして私が算数指導について語るの?と思いましたが、「校長先生も、私が、元数学教師だったことをご存知なのだな。受けるしかないか。」と諦めともつかない覚悟ができました。
その後、ボリビア人の先生方の意向も聞きながら、数回の打ち合わせを重ねて「日本の算数指導の実状とサンファン学園への提言」という題で研修会を1月23日に持つことになりました。すぐに、JICAへ連絡をして「算数の資料を貸して下さい」とお願いしましたが、使えるものはなく、急いで日本から指導要領を取り寄せ、宮崎で小学校教師をしていた現在サンタの教育庁へ配属のN青年から日本の算数教科書をお借りしたり、事務所のSさんにはボリビアの教科書をお借りして日本とボリビアの算数指導の特徴を洗い出しました。
ボリビアでは教科書を使わない学校が多いそうです>

日本のように「掛け算九九」が無い為に、こちらの人は計算が遅く、その上、計算力が低いのです。全てが加法で計算する為に時間がかかります。その上、間違いも多いので、買い物の時には注意が必要です。
研修では、全員にカードを示しながら補数を言ってもらい、その次に、掛け算九九の利点について話しました。割り算の指導でも、日本では1桁÷1桁、2桁÷1桁、2桁÷2桁と順序性をもたせて決め細かく指導していくのに、こちらでは2桁÷2桁、6桁÷3桁のように飛ばして指導し、その上、練習問題も少ない事が分かりました。私が調べた5先生の教科書には少数の割り算がなく、学園の先生が他の教科書から当たって下さり、「日本とボリビアの割り算指導の実態」を表にして一見して日本の方法が優れているということを理解していただくような資料を作成しました。
研修には問題演習をいくつか取り入れ、先生方が一方的に聞くだけでなく楽しく参加できる形を取りました。百マス計算を25マスと100マスでやってもらい、特徴や良さを分かってもらいました。現役時代に、この研究会に属していたことが生かされたのです。100マス計算の創始者陰山英男さんと思われがちですが、本当は「見える学力、見えない学力」を書かれた岸本裕史さんなのです。最後の赴任校で、岸本先生を神戸からお呼びして「教育の基礎基本について」先生方と保護者と一緒に聞いたことを懐かしく思い出しました。
 また、簡単な図形問題を解いてもらい、出来た人に黒板で説明してもらいました。先生方に生徒体験をして欲しかったのです。ここで、双方向の授業の大事さを強調しました。
<JICAに反対していた先生方もビデオに釘付け>

 幸い、JICAからスペイン語による「筑波大学附属小学校での算数研修」のビデオを入手したので、これを見てもらいました。日本でも代表的な先生方の研修会ですので、こちらでそっくり真似することは不可能としても一歩でも近づけたらと願いながら写しました。昨年、南米の先生方が100名くらいラパスに集まり、JICA主導で研修会が持たれました。学園から代表で参加した英語の先生は、その研修会で学んだことを生かして皆の前で研究授業(初の試み)をしたそうです。その先生の感想を入れながら「今年もどなたか皆の前で授業をして研究をしていって下さい。」とお願いしました。A先生は皆の前で褒められた事が嬉しかったのか、しきりに頷きながら涙ぐんでいました。子供だけでなく大人も認められたり褒められたりすると嬉しいのですね。
 <スペイン語の通訳付きなので熱心に聞き入る先生達>

 サンファン学園の今後の取り組みについて算数指導だけでなく、カリキュラム編成についてもお話しました。東北大学川島隆太教授の「計算と音読が脳の活性化に役立つ」ということを紹介しました。ボリビアの学校では、日本では無くなってしまった詩の暗誦が行事ごとに披露されます。ですから、毎朝、子どもたちが好きな詩を音読して暗誦してはどうでしょうか、百マスと組み合わせて朝の5分から10分で実践するように勧めました。これから、この取組みを1年間継続した後の子供たちの変容が今から楽しみです。
 研修を終えての感想では「日本の算数指導の歴史や流れが分かった」「掛け算、割り算については日本の教え方のほうが優れていると思った」「教員研修のやり方が分かった」という声に加えて「また、この様な研修会を開いて欲しい」「自分の授業を見て、指導して欲しい」という積極的な意見も出されました。2週間たってから、学園の先生にその後の様子をお聞きしたところ「教師が意欲的になった」「紹介した算数セットを5人の算数指導者で自作しようとしている」「JICAの教育プロジェクトに反対していた先生方も齋藤先生を通してJICAの流れを理解できたようだ」と教えてくれました。先生方が燃え始めた証拠でしょうか。来週から始まる新しい学期には、どの先生も子供の心に火をつけて欲しいと願っています。